植草一秀氏による2018年金融見通し

植草一秀さんという野村総合研究所出身のエコノミストがいらっしゃまして、昔はテレビにもよく出ていた方でした。主張としては反グローバリズム・反リバタリアニズムという姿勢で割と好きなエコノミストさんだったのですが、諸般の事情で今はマスメディアには出れなくなっています。

そのあたりの事情はWikiをご覧ください

この方は今、金融情勢と投資情報の配信サービスの会社をしておられるようです。年に一回それをまとめて出版されているようなので、入手して読んでみました。2017/11月に出版された氏の最新刊ですが、内容は2018年の予測がほとんどです。

「あなたの資産が倍になる」というセンセーショナルな題名がついていますが、題名は販促のために編集者がつけることが慣習らしいので、そのへんは割り引いて考えましょう。

8%以上の利回りを狙って9年続けられれば、資産は倍になる」と言っているだけで、アクティブなバリュー・グロース投資方針のようです。

刑事事件でやられたせいかどうかはわかりませんが、ユダヤ資本家・軍産複合体・超大国による陰謀論めいた主張が随所に見られるのがちょっと読んでいて「うーむ」と唸ってしまいます。
しかし、資金力のある集団がロビー活動やマスメディアを使って自分たちの都合のいい方向になるようにしているのは、否定できないところですので、まぁ「そういう見方もあるよね」程度で受け流せばいいじゃないでしょうか。

庶民の資産防衛という方針で主張されているので、首肯するところも多くあります。氏の予測がどうであったか、見てみましょう。2018年も9か月経っているので、答え合わせに近いものがあります。

世界の金融情勢

ポイントは5つあると筆者は指摘する。

・北朝鮮

・トランプ大統領とFRB金融政策運営

・中国の新体制

・欧州情勢

デフレを脱却してリフレに移りつつある(2017/6 ECBドラギ総裁)

・日本の対応

量的緩和は日本が先んじたにもかかわらず、ECBがリフレ志向を示したことは、日銀が出口戦略(量的緩和縮小)を求められるのは時間の問題。

2018年になんらかの重要な波乱が起こると予測する。

リベラル的なマスコミの報道を丁寧に拾っていくと同じような結論にたどり着くと思います。氏のオリジナルな分析は書籍を読んでいただくとして概要をざっくり。

1.北朝鮮

日本は北朝鮮の核開発を非難するが、インドやイスラエルは非難しない。また、インフラ輸出の一環として日印原子力協定を結び核開発国に原子力施設を輸出する意向である。

また、グローバルな巨大資本は昔から戦争を重要な収益源としてきた。敵対する構図を作り出し、兵器と購入資金を提供してきた。現代における戦争は必然ではなく巨大資本の需要(必要)によって生まれている。

本当に有事になってしまえば、金地金・海外への逃避くらいしか保全手段はない。

海外といっても、海外の現地口座でなければ保全は危うい。その場合、違法取引と疑われない注意が必要。

2.アメリカ

アメリカは2大政党制で世間交代が定期的に起こる真の民主主義の国と思われているかもしれない。しかし、選挙に勝つには巨額の費用が必要であり、巨大資本からの寄付・献金なしには成り立たず、経済政策的にも共和・民主両党に大した違いはない。

トランプは選挙資金のほとんどを自己資金で賄っており、巨大資本の傘下の候補ではない。メディアは巨大資本が抑えており、叩かれ続けているのはなにか意図があるのだろう。

トランプは実用主義であり、引くところは引いて議会と交渉しており、メディアが報じる姿とは違うと考えたほうが良いだろう。

3.FRB

まずは人事が最大の問題。イエレンが最適だが民主党に近いのが問題。パウエルなら激変はしないが、FRBをまとめきれるかどうか。

過去25年間、FFレートが加工する局面で株価の急落が起きている。2001年(ITバブル)と2007-9(サブプライム危機・リーマン・ショック)。

これは因果が逆じゃなかろうか。

FRBの使命は雇用と物価の安定である。FRBが今後どう動くか注目すべき指標は3つ。
・雇用統計
PCE価格指数2%程度を目標にするはず2%を超えてくればインフレ抑制のため金融引き締めを測ってくるだろう。
WTI物価の先行指標として、原油価格も影響するWTI先物が60ドルを超えてくれば警戒水域だろう。

金利と商品価格の関係

・ドルの金利と価格は逆相関する。長期金利が低下すれば金価格は上昇する。金利が上昇していく局面では金価格の上値は重いだろう。

・米長期金利が上昇すれば、円の金利も無関係ではいられないだろう。金利の上昇は債券価格の下落をもたらす。そうすれば日銀資産の時価評価は大きく既存し、信任が揺らぐリスクが有る。

・日本の長期金利が上昇すれば、REIT価格の下落をもたらすだろう。

→REITは決算書を読めばわかりますが、大家業を法人成した法人が借金をすることでレバレッジを利かせるという、投資ビークルです。それにREIT投資法人という名前を付けただけの代物です。(REITを買って決算書届いて読むまでわからない。そんな解説は証券会社は一切しません。)

サブプライム危機で問題になった投資ビークルや、中国崩壊論でたびたび引用される投資平台・理財商品とやってることはほとんど変わりません。

もうちょっと言い換えると「借金をして不動産投資をすることを、投資法人がやってくれる」事業が小口化されたものに出資するわけです。借金をして投資をするのは自己責任だということを認識させてない分、ちょっと売り方が汚い、と思っています。

当然、レバレッジのために借金をしているので利上げ局面では投資リターンが下がることを通じて大きく値が下がります

偉そうなことを書いてますが、私はこれは過去の下落局面で身をもって学びました(苦笑)。

その他のFRBの動向については、全くもって同意します。一生懸命ニュースを読み漁って理解したことが簡潔に纏められていて、かつこれが昨年かかれたものだと思うと、氏の洞察力の高さに舌を巻きます。

ブログ主の2018年経済見通しはこちら。

3.中国

嫌中派にとっては残念なお知らせだが、ハードランディングはしないだろう。減速ではあっても失速ではない。中国の経済に問題があるのは事実だが、GDPにおける投資の割買いが多すぎることであり、個人消費に移行しなければいけない。
指導部も認識しており、5年はかかる覚悟をしている。

習主席は今後3期目を伺う方向で準備をしているように見える。その認識で先を見通すべき。

中国の負債が高水準で統計も信頼できないのでリスクがあるが、危機に陥るのを阻止すべく政策対応を行うだろう。

→全く同じ意見です。

4.資産倍増への極意

アクティブ投資の極意なので、書籍をよくお読みください。

セクター分析・投資の着眼点・革新の波などが指摘されています。

5.日本経済の行方

本書で一番面白く、読み応えがあるのはここです。氏の得意分野でもあるのでしょう。まあ、自民党政権をたたきまくっていますが(笑)

巻末記載の推奨銘柄に投資していたら…?

巻末に推奨銘柄が出ています。なんでおすすめしているかは本を読んでいただくとして、約一年たった成果をチェックしてみましょう。

証券コード 銘柄 2017/10/20終値 2018/10/2終値 単元株 単元ずつ買った場合 騰落率
5411 JFE 2313 2608 100株 231300 260800 12.8%
5711 三菱マテリアル 4100 3465 100株 410000 346500 -15.5%
6367 ダイキン工業 11955 15280 100株 1195500 1528000 27.8%
6752 パナソニック 1637 1371.5 100株 163700 137150 -16.2%
7267 ホンダ 3428 3486 100株 342800 348600 1.7%
8306 三菱UFJ 727.8 714 100株 72780 71400 -1.9%
8591 オリックス 1330 1841 100株 133000 184100 38.4%
8750 第一生命 2094.5 2417.5 100株 209450 241750 15.4%
9843 ニトリ 16860 16380 101株 1686000 1638000 -2.8%
9983 ファーストリ 36520 58250 100株 3652000 5825000 59.5%
4307 NRI 4365 5760 100株 436500 576000 32.0%
4768 大塚商会 7340 8470 100株 734000 847000 15.4%
6273 SMC 40700 37380 100株 4070000 3738000 -8.2%
6324 ハーモニックドライブ 5540 4260 100株 554000 426000 -23.1%
6954 ファナック 25000 22265 100株 2500000 2226500 -10.9%
合計 16391030 18394800 12.2%

 

損切も強調されている筆者ですから、もっと高いと主張されるでしょう。また、年初にかけてはいずれの銘柄も上がっています。(上げ潮はすべての船を持ち上げる、という見方もできますが。)

証券会社や事業会社から給与を貰える立場ではなくなった氏の置かれた立場を考えると、証券会社や経済紙の推奨銘柄やネットで跋扈する仕手筋情報よりはずっとマシな情報でしょう。

ただ、年間29800円というのは、私には出せないかな…。

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