糸魚川大火災クラスの災害に保険は役に立つのか?火災保険を考える

2016年末、糸魚川市で大火災が有りました。

糸魚川市大規模火災 ーWikipedia

中華料理店の店主がシナチクの仕込に大鍋の火をかけ、うっかり火をかけたまま店を離れた事が原因と報道されています。このような大災害となった場合、被害は補償されるのか?また、加害者側になった時に保険は頼りになるのか?今回はこの事件を題材に火災保険を考えます。

この火災は、失火に寄るものであったものの、折からの強風により鎮火まで30時間を要する大火災となりました。これにより、1650年から続く酒蔵や200年近いの歴史を誇る老舗割烹、北大路魯山人など著名人に愛された老舗旅館など歴史的価値のある建物も消失しました。被害額は市の見積もりでは10億円、歴史的価値を考えると30億円と報じる報道機関も有ります。

このような時に保険は役に立つのか、立たないのか?

隣家からの延焼で賠償は得られるのか?

「隣の家からでた火事で家が焼けてしまったー。」そんなことがあったら、怒りに震え「責任を取れ!」と言いたくなるでしょう。通常、被害を受けた場合賠償を受けられると思うでしょう。たしかに、民法第709条にはこうあります。
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
でも、待ってください。日本では基本的に「もらい火事は、賠償請求できない」のです。何故かと言うと、明治に作られた失火責任法という法律がまだ生きているからです。正式には失火ノ責任ニ関スル法律と言い、下記の一条のみからなる法律です。

民法第七百九条ノ規定ハ失火ノ場合ニハ之ヲ適用セス但シ失火者ニ重大ナル過失アリタルトキハ此ノ限ニ在ラス

先程の民法の規定は失火には適用しない、と明確に書かれています。これは木造の多かった明治期に失火して更に損害賠償責任を追うのは酷であろうという主旨と言われています。

「でも後半に重大なる過失が有る時は…」って書いてあるじゃんって気づいたあなた。するどいです。いわゆる重過失の時は損害賠償責任を負うのです。重過失が何かというと、ついうっかりでは済まされない気をつけるべき事をしなかった過失ということになります。

過去には天ぷら鍋に火をかけたまま長時間不在にしたというのが重過失とされた判例があります。(個々の事情が考慮されるので天ぷら油による失火なら重過失、と判定できるものでもないです。)この火災の失火元が賠償責任を負う可能性はあると思えます。

個人賠償責任特約は使えるか?

火災保険にも個人賠償責任特約ってあったよな、という方。お詳しい(^^;

この特約は賠償責任を負ってしまった場合に補償をするもので、最終的な支払い被害を受けた方に行きます。保険の被害者救済という観点から、重過失が免責事項になっていないことが多いようです。(私が問い合わせたところ保険会社によって返答が違ったので、契約前に確認しましょう。)

ではこの個人賠償責任が使えるかというとかなり微妙です。一つは「日常生活に起因する事故」が対象であることと賠償範囲が1億円以内であることです。

この火災では家事ではなく仕事中の事故ということですから業務用の補償特約でないと補償されない可能性があります。また、今回の事故では1億ではとても足りません。

ただ「鍋に火をかけっぱなしにしたことがあるなぁ・ω・」といううっかりさんは、特約に加入されると不安の種が一つ減るかな、と思います。

類焼損害補償特約ってなぁに?

賠償責任特約のほかに類焼損害補償特約という物があります。これは重過失がなく賠償責任がなく、かつ、類焼先に充分な火災保険がなかった場合に支払われる特約です。

この特約は類焼先に保険が有った場合、その保険代は差し引いて支払われます。

今回の事故で言うと「古い保険をそのまま見直しもせずに居たら、数百万しか払われなかった」という声が多かったようです。昔の火災保険は時価方式と言って最初にかけた金額から減価償却した分しか払われない、というものでした。

この減価償却というのは会計上の概念で「5年使うつもりのパソコンを20万円で買ったら、一年で計上できる費用は20万/5年の4万だけよ」っていうものです。ですので、買って1年経つと、時価は20万から4万減って16万という計算で「火災で燃えたら買ってからの時価で補償される」つまり年数が経てば経つほど補償額が下がっていく、というものです。

「そんなこと言われたって燃えたら新しいもの買い直さないと行けないじゃないですか!?」っていうあなた。正解です。最近の火災保険は「再調達価格」と言って同じものを買った時にどのくらいの費用がかかるか、というのをもとに損害額が判定されます。

古くからの保険をそのままにしている、っていう方、一度見直しをしてみてはいかがでしょうか。

再調達価格の落とし穴って!?

時価方式に比べて再調達価格っていいじゃんって思うと思います。ところがこの方式にも落とし穴があります。それは、この再調達価格は損害保険会社の算定を受ける、ということです。

どういう事かというと、例えば5000万円でマンションを購入して5000万円分の火災保険が掛けられるでしょうか?マンションの価格には土地代も含まれています。また、RC構造のマンションは火事が起きたとしても焼け落ちてなくなってしまうことは無くて、建物は残るから内装フルリフォームすれば住めてしまう、という現実が有ります。

そのため、10平方メートルあたり130万円前後でフルリフォームできる、という補償上限テーブルを保険会社は持っています。それ以上に掛けた保険は「過保険」と言って保険額を設定しても上限値までしか払ってくれません。

このことをきちんと説明せずにしれっと保険を掛けて保険代を貰っていく悪い代理店もありますから、事前に「補償額上限はいくらか」を保険会社に問い合わせましょう。

結論

  • もらい火による場合は、重過失があったとしても火元が相応の保険を掛けていないと補償されない。
  • 自分が出火元になる可能性も含めて、適正な保険額で自物件に対しての備えはしておくべき。
  • 複雑でよくわからないな、と思ったら専門家に相談しましょう。

といったところです。

火事は怖いですね。糸魚川大火から1年以上経ちましたがまだまだ更地は多いようです。

糸魚川市駅北大火復興情報サイト ー糸魚川市

 

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